世界で一番高い石造建築

世界で一番高い石造建築をご存じだろうか。と言うと、たいていピラミッドとか、ゴシック聖堂とかいう答えが返ってくる。クフ王のピラミッドはあの時代にしては大きいが、146.6m。高いというより巨大なのだ。ゴシック建築で一番高いウルム大聖堂が161m。だが世界一ではない。
正解はワシントン記念塔。アメリカの首都計画の要に位置する巨大なオベリスク型の建造物である。高さ169m。ロバート・ミルズによる当初の案は、列柱が取り巻く古典主義神殿の中央に巨大なオベリスクが立ち上がるという奇妙な代物だった。1848年に着工されたが、後に資金難で工事が中断。1878年に足もとの神殿を廃し、単純なオベリスクとして工事が再開。そして1884年、頂部に1.5トンのピラミッド状大理石を据えて完成させられた。ピラミッドの最頂部は当時のレア・メタル、アルミの鋳物である。
ワシントン記念堂の内部には(当初は蒸気式だった)エレベーターが設置されていて、頂部ピラミッドの内側まで行くことができる。そこにはわずかに開けられたスリット状の小窓から、モールの向こう側に連邦議事堂、反対側にリンカーン・メモリアル、そして、計画都市ワシントンDCを一望することができる。エジプトのオベリスクはモノリス(一枚岩からなる石柱)であるが、世界一の石造建築はそれを模した記念塔であり、いわば中空の展望装置である。
では、ヨーロッパで一番高い石造建築をご存じだろうか。またもやウルム大聖堂ではない。たしかにゴシックは歴史的様式のなかで高さを強調するのにもっともふさわしい表現であるのだが、しかし、この正解がゴシックの根づかなかったイタリアにあるのだからおもしろい。トリノにあるモーレ・アントネッリアーナが、ヨーロッパで一番高い石造建築である。高さ167.5mのモーレ(イタリア語で巨大建築を意味する)はウルム大聖堂を凌ぎ、ヨーロッパで一番高い石造建築だ。設計者アレッサンドロ・アントネッリは生涯高さにこだわり続けた建築家である。
[『積算資料』2010年1月号草稿の一部を抜粋]