フォーリング・ウォーター

(…)20世紀にはいると、ただ眺める人工滝ではなく、住環境としての滝というコンセプトが登場する。滝に近接する別荘という主題で、落水荘(フォーリング・ウォーター)を語らないわけにはいかないだろう。清流に覆いかぶさるコンクリート・スラブの積層は、近代建築を学んだ者にとってあまりにも有名である。同時に、その多くが行ってみたいと思いながら、なかなか行くことのできない作品でもある。なにしろ交通の便がないのだから。かくいう私も、落水荘詣でを果たせたのはついこの前のことだ。別荘はピッツバーグより車で1時間以上走った渓谷の中にあり、実際、周りには自然以外なにもない。ひたすら自然を満喫できる。季節が良いと最高だ。逆に、冬季は雪も深く、さらに交通の便が悪くなることだろう(現在、冬季は閉館となっている)。
アメリカ人が好きな建築作品第一位にランクされる落水荘は、当然ながらアメリカ人建築家フランク・ロイド・ライトによる中期の傑作である。デパート経営者の富豪、エドガー・カウフマンの別荘で、夏期を中心とした一年のうちのほんの一時を過ごすためにつくられた住宅である。究極に不便なのであり、だからこそ究極に自然と向き合うことができる。これが究極の贅沢というものなのだろう。
落水荘は想像以上に大きな別荘で、また、スラブの張り出しも想像以上にダイナミックであった。必然的に構造強度については竣工時から問題視され、オーナーがカウフマンから西ペンシルベニア自然環境保護団体に移った後も長らく検討が重ねられ、2002年にようやく構造補強工事を終えたところである。
あまり写真で目にしたことがなかったせいで興味深く思えたのが、別荘の滝側ではなく山側の部分である。こちらがエントランス・アプローチであり、そこには無骨なコンクリート梁が人の頭上ほどの高さに何本も走り、反対の岩壁に固定させられている(…)
[『積算資料』2010年6月号草稿の一部を抜粋]