古典主義とゴシック

古典建築、古典様式という名称(…)は古代ギリシアおよびローマの建築を指すが、それらに倣ってつくられたルネサンス時代以降の建築を指すこともある。後者の意味では、古典主義建築という名称もある。実際に言葉の歴史をさかのぼると、「古典classic」や「古典的classical」という言葉には、権威、階級区別のニュアンスが確認される。古代ローマ第六代の王セルウィウス・トゥリウスは、財産によってローマ市民を階級区分したとされる。そして、ラテン語のclassicusはそれぞれの階級ではなく、最上級、もっとも富裕な層を指すようになっていった。中世に一度その意味は失われてしまったが、16世紀にはイタリア人によって再び最上級、最高級という意味が回復され、フランス人やイギリス人もこれにしたがった。こうして、「classic=ファースト・クラス」というイメージが定着した。「classic=古いもの」という意味で使われだすのが17世紀のことであるが、ここで言う古さは、絶対的な規則、疑いようのない手本という意味であった。古代ローマ建築に倣ったルネサンス建築、バロック建築、あるいは、古典主義建築が全面的に支持されていた時代の話である。
ゴシックという名称も以上のエピソードに関係がある。古典建築が最高級のものとされたまさに同じ時代に、中世建築を指すためのゴシックという言葉が軽蔑的に用いられはじめたのである。「ゴシックGothic」という名称はローマ帝国を滅ぼした「ゴート族Goth」に由来しており、野蛮な民族の文化として見なされたのであった。まさしく古典主義的な構図が維持されたのは、西洋建築がイタリアから発信された時代のことである。
[『図説西洋建築史』草稿の一部を抜粋]