地域主義(リージョナリズム)とは?

第2次大戦後,ある動向が力をもつようになった.これは一元化した合理主義的な建築を見直そうとするもので,この合理主義に対するロマン主義的な反動の手続きは,主として地域的な要素に求められた.環境への融合,ゲニウス・ロキの尊崇,地域伝統への顧慮,感覚的要素の積極的な導入,そして無形式を標榜する建築…….いわゆる「リージョナリズム」である.このように「リージョナリズム」を戦後の建築潮流に張り付けるレッテルとして使用することはできるのだが,殊「リージョナリズム」と呼びうる姿勢に関しては,20世紀全体を通じて幅広く認められるものである.そこでは,それらが時代の前線に立ったか否かは問題にしていない.ただ程度の問題として,そして,認識の問題として,〈確かにモダニズムの傍らに「リージョナリズム」は存在し得た〉ということである.この意味において,前世紀からの影響を色濃く残す建築家はもちろん,今世紀初頭の革新的なモダニストの内面においてさえ垣間見ることができるのである.つまるところ,「リージョナリズム」は多様な建築観に基づき,合理主義の欠陥を補うようなあらゆるスローガンを含み,経験主義や表現主義の流れとその旨を共有する.この断面によって,20世紀建築全体を切ることは大いに刺激的なのではないだろうか.なぜなら,地域特有の建築や建築観を扱うことは,その多様性や独自性によって魅力的であるだけでなく,その主張に内在する批判性によって多くの問題点が明らかになるからである.ごく単純化したもの言いをするならば,「リージョナリズム」の批判性は,強者/弱者,主流/傍流,中心/周縁,進歩/伝統という相対的な力関係において,いずれも後者の立場を表明する際に機能すると言えよう.ここにいたって,「リージョナリズム」そのものは,けっして自律しえないものであること,統一的な不動の建築理念を掲げることは不可能であることが理解される.
[『20世紀建築研究』草稿の一部を抜粋]