積み上がる造形をいかに表現するか

一般に高層ビルのデザインにヴァリエーションを出すのは難しいとされる。フロアの積層が、結局のところ起立する造形を逃れられないからだ。どんなにがんばっても最終的に塔状建築になるのはまずまちがいないわけで、この当たり前の事実からどこまで行けるかが勝負なのだ。ボディーに膨らみやくびれをつくったり、ど真ん中に穴を開けたり。上階をツイン・タワーにしたり、あるいは、連結させたり…。しかし、外形がどのようになろうとも、その内部でフロアが単純に積層している事実にはまったく変わりがない。高層ビルはフロア積層の必然である。
建築の歴史を辿れば、フロアの積層を外観の表現として確立したのが古典主義の様式であろう。ルネサンス時代のパラッツォ(大型の都市住宅)、たとえばフィレンツェのパラッツォ・ルチェッライを見れば、三層構成の外観はあきらかにフロアの積層を積極的に表現したものである。この建物はそもそも煉瓦造であるから、この壁面にわざわざ柱を表現する必要はないのだ。つまり、柱は装飾として意図的に表現されているのである。建物には一階から三階まで、ドリス式、イオニア式、コリント式による柱が順番に積み上げられている。この構成は古代ローマのコロッセウムに遡り、もっともどっしりとしたドリス式、少しほっそりとしたイオニア式、もっとも優雅とされるコリント式の順番で下から積層させられている。こうした性格づけは古代建築が再び脚光を浴びるルネサンス以後、すなわち古典主義の伝統のなかで疑いようのない原理・原則となり、三種の柱は古典主義建築におけるもっとも正統的な表現要素となったのである。
近代に入り、ルネサンス・パラッツォの構成を高層建築の美として捉え直したのが建築家ルイス・サリヴァンだ。今から一世紀ちょっと前、サリヴァンは高層建築を、基部・中間部・頂部の三層構造で捉えた。当時ヨーロッパでせいぜい五、六階建ての建物に用いられていた古典主義の様式を、未知の高層建築に応用してみせたサリヴァンの功績は大きい。古代ギリシアやローマにつながる古典主義は、基部から頂部までの要素を積層させ、全体を安定した調和美として見せることを旨とする。サリヴァンは中間部をある程度均質な積層外観とすることで、古典主義をあらゆる高さのビルに順応させることができた(…)
[『積算資料』2010年2月号草稿の一部を抜粋]