モニュメントとは?

西洋建築のなかで重要度の高いものを示す際に使われる「モニュメント」という言葉は、もともと「何かを思いおこすための物」のことである。だから、モニュメント自体は恒久的な存在として考えられ、後世にまで当初と変わらないその役割を求められる。だが、現実にはそうはいかない。形ある物は壊れもする。そこで、素朴な疑問。西洋建築史で教わる数々の建築作品、それらは本当に数千年、数百年もの間建てられた時からまったく変わらずにいられたのか。多くの場合、答えはNOである。長い年月がたてば、どんなに頑丈な石造りでも風化は避けられない。ある時代には勝手に改造もされたであろう。あるいは、天災によって倒壊したかもしれない。そのたびに、人間は建築に手を入れてきたのであり、現在われわれが見る姿はその成れの果てにすぎない。とりわけ、20世紀にヨーロッパで起こった世界大戦は西洋建築に壊滅的なダメージを与えた。あまり語られることはないが、空襲によって倒壊し、戦後に何事もなかったかのように復原された西洋建築の傑作は多い。考えてみれば、ヨーロッパ全土が戦場となったのだから、歴史的・文化的に重要な建築であるというだけで無事でいられる保証はなかった。戦後になって、破壊された建築を完全なもとの姿に戻すことがヨーロッパの復興の証であり、その際、戦争という負の記憶は抹消するのが普通であった。もちろん、破壊されたままの姿を保存したモニュメントもあるが、きわめて稀なケースである。
[『図説西洋建築史』草稿の一部を抜粋]